昭和の「暮しの手帖」から

創刊号〜70年代「暮しの手帖」バックナンバーから。珠玉の記事をピックアップ

平塚らいてう「陰陽の調和」から 1949年

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「暮らし」について

平塚らいてうが『暮しの手帖』に初登場したのは、第2号(昭和24年)に掲載された「陰陽の調和」というエッセイ。

花森安治は、エッセイの原稿はあえて専門のことについてでなく、「暮らし」について書いてもらおうと考えていたようです。

「この雑誌には、むつかしい議論や、もったいぶったエッセイは、のせないつもりです。それが決して、いけないというのではなくて、そうしたものは、それぞれのものが、もう、いく種類も出ているからなのです。」

「この紙のすくない、だから頁数も少なくしなければならないときに、どの雑誌も、同じような記事をのせることはつまらないことだと考えたからなのです。・・・」(第一号 あとがきより)



平塚らいてう「陰陽の調和」

「衣食住のうちの食について何か書けとのこと。さて、ペンをとったものの、今は何でも科学、科学、科学的でなければ通らない時代、相変わらずカロリーやヴィタミンA、B、C ...が問題で、女栄養士という女性新職業が有望な今日、わたくしの食生活の指導原理と言えば、非科学的でないにしても、超科学的、今の新しい栄養学信奉の、若いおんなのひとたちにはどういうものか。」

という書き出しで始るらいてうのエッセイ。若い読者に自分のエッセイが合うだろうか・・?、と案じています。

平塚らいてう自身の食生活の実践については、
「それは何かと問われれば、一言で陰陽の調和と答えよう。・・つまり陰陽調和したたべものを狙っているのである」
と書いていて、具体的に実行してることとして、玄米食をあげています。

胡麻じるこは格別なもの

戦時中の疎開地を、料理研究家の中江百合がたずねたとき、らいてうは玄米食や利根川の小さなウナギの蒲焼き、野草のあえもの、辛味噌のおつけなどで歓迎しました。

「その時これは中江夫人がお好きそうなと思ってこしらえた胡麻じるこが、果たしてたいへんお気に入り、今でもまだ時折その話をしてくださる。」

「この胡麻じるこはまた格別なもの、わたくしももちろん大好きである。普通の小豆じることは味も香りも、栄養価も比較にならない。つきたてのやわらかいお餅を、そのまま入れればいっそう結構である。」 

と、らいてうのペンも生き生きと動き、胡麻じるこの作り方を知りたいという読者からの問い合わせが、らいてうや編集部に届いたということ。

第4号の夏の号で、平塚らいてうは「ゴマじるこの作り方」を披露しています。


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塩昆布、ごま塩、鉄火みそ、小魚のつくだ煮、大根おろしと海苔・・・

エッセイの最後では、食料事情のむずかしいこの時代に、思うような食べ物を整えることはできないにしても、陰陽の調和を忘れずにいれば、それ相当の工夫は出来るもの、としていて

「いわゆるご馳走も時には結構だが、わたくしの食卓に、いつもほんとうにほしいと思うものは、塩昆布、胡麻塩、鉄火味噌、小魚の佃煮、大根おろしと海苔くらいなものなのだから。」と結んでいます。 
 

『暮しの手帖』のレイアウトとイラスト

『スタイルブック』がアメリカ的なデザインだったのにたいして、初期の『暮しの手帖』のエッセイなどは三段組みで、それを子持ち罫(太い線と細い線の罫線)で囲むシンプルな、むしろ和風のレイアウト。


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右ページ 子持ち罫のもくじ

ひとつひとつのエッセイには、花森安治のインクや墨で描かれたイラストが添えられています。 

題材は、すべて身の回りにあるものを選んでいて、そのイラストを眺めているだけでも面白いものです。
 
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「ゴマじるこ」のイラスト

第2号は平塚らいてうの他に、小堀杏奴、大佛次郎、内田誠、兼常清佐、石井桃子、三岸節子などのエッセイ、藤城清治の影絵の童話。

第4号では、室生犀星、井伏鱒二、杉村春子、幸田文、堀口大学、片山広子、野間宏 ・・・と、各人が専門分野を離れて、身のまわりの暮しを書いたエッセイは貴重な資料。

このあと平塚らいてうは、3年後の18号(昭和27年)に登場します。
「わが若き日 明治の女性」として、岡田八千代、林きむ子、山川菊栄との対談です。

素顔の平塚らいてうは?

ところで,「平塚らいてうってどんな人なのか知りたい」と思ったときに、平塚らいてう自伝としては「元始、女性は太陽であった」上巻、下巻、続、完の4巻シリーズがあります。

子供時代〜女子大時代、塩原事件、青鞜創刊までを収めた上巻、「青鞜」時代を収めた下巻など、読みごたえがある分、読み通すのは大変かもしれません。

そこで、おすすめなのが、平塚らいてうの孫にあたる奥村直史の書いた「平塚らいてう 孫が語る素顔」です。

らいてうの父母、らいてうの夫である奥村博史、子供たちや孫、筆者の妻など家族を通して語られる、らいてうの素顔。 

生涯に渡るらいてうの著作や仕事についても分かりやすく、本も新書サイズでコンパクトです。


平塚らいてう?孫が語る素顔 (平凡社新書602)

平塚らいてう?孫が語る素顔 (平凡社新書602)

  • 作者: 奥村直史
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2011/08/11
  • メディア: 新書
 


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