なんにもなかったあの頃
終戦から3年たった昭和23年は、『暮しの手帖』にとっても身を切られるようにつらい年の暮れだったといいます。
秋に出した第一号は一万部刷り、みんなで手わけしてリュックにつめ、毎日東京を中心に湘南、千葉、茨城、群馬と本屋さんを一軒、一軒たずねて店頭に置いてもらい、八千部売れて二千部残ったそう。
第二号も、おなじように本屋さんに置いてもらったが、お金が入るのに一ヶ月かかるから暮れの支払いは間に合わない。あちこちからお金をかき集めて印刷代や紙代を払い、仲間にわずかの餅代を分けたら、手のひらに五十なん銭かが残っただけ。それでも気持ちは明るかった、といいます。
第二号にのっている「台所の椅子」
「暮しの手帖」に紹介された初めての工作記事。
木製のリンゴ箱を利用して、ノコギリとくぎとトンカチだけで簡単に作る椅子です。
なんにもない世の中であった
椅子一つ売っていなかった
だからといって、なんにもしないわけにはいかない、
暮らすのをやめるわけにはいかない、
売っていなければ作ろうではないか
(暮しの手帖 第100号 なんにもなかったあの頃)
その気持ちがこの記事を作らせたといいます。
台所に椅子をおく
座板 30×30cm 1枚
上サン・下サン 6×26cm 4枚
脚大 8×38cm 4枚
脚小 6×38cm 4枚
下棚
1 リンゴ木箱を図の大きさにノコギリでひいたら、まず脚を、大と小と一組ずつ打ちつける。
2 次に下サンを両脚に打ちつけてゆく
3 上サンを打ちつけて、四脚をつくる。このとき、釘を打つのに不安定だから、なにか有合わせのもので支えをして、打つ。
4 下の棚を、簡単に釘でとめてから、座板を打ちつけると出来上がり。
このままでもいいが、美しくしたければ、はじめに表に出るところだけカンナをかけ、好きな色のエナメルを塗るといい。
(制作者 荒川 暁一)
台所に椅子をおくということ
この記事に、添えられている文章です。
電気せんたく機や真空掃除機は、いまの私たちに及びもないとしても、せめて出来ることから、ひとつでも主婦の手を省き、疲れを少なくすることを考えたい。
その一つが、台所に椅子をおくということである。すこしのヒマでもあると、腰かけるようにすると、どれだけ疲れ方が違うか知れないのである。
材料はリンゴ箱一個。
くぎは木箱のを丁寧に抜いて使えばいい。カンナは、むづかしければ、かけなくてもいいのであるが、これくらいのものならわけはないから、自分でやるのがいい。
これからは、女のひとも金ヅチやノコギリを使うことを、気軽にやれるようにならなければ、と思う。
(美しい暮しの手帖 第2号より)