昭和の「暮しの手帖」から

創刊号〜70年代「暮しの手帖」バックナンバーから。珠玉の記事をピックアップ

料理店にまけないカレーライス:千葉千代吉 1952年

昭和27年の初夏、16号の「料理店にまけないカレーライス」です。

大橋鎭子三姉妹もカレーが大好きで、大橋家のカレーはこのレシピをもとにしていたそう。小説家の志賀直哉がこの記事を見て自分で作り、「書いてある通り作ったら、おいしくできた。暮しの手帖は役に立つ」と会う人ごとに宣伝してくれたというエピソードがあります。

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志賀直哉

材料(五人前として)

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鰹節 30匁
バター 30匁
玉ねぎ 半個
メリケン粉 40匁
カレー粉 茶さじ4杯
にんじん 1個
リンゴ 1個
トリ肉 100匁
じゃがいも 3、4個
にんにく 1片

(1匁 = 3.75 グラム)

 
材料をみて、「えっ、カツオブシ?」と 驚きます。 
なぜ、カレーにカツブシだしなのか? その答えも見つけました。
(この記事のおしまいにあります)


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わずか2ページの記事ですが、カレールーから「身近な材料を使い、誰でも作れるように」ていねいに解説されていて、文章は長いのです。

ちょっと気合いがいるかも・・・

写真の手のモデルは、ホットケーキ同様に鎭子さんです。



料理店にまけないカレーライス

それでは、作り方です。

まず、だしを取ります。 


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まず水一人3合の割合で、一升5合を鍋にとります。

上質の鰹節を一人6匁ずつ、合計30匁用意して、水が沸とうしてきたら、入れて、少し煮たてて、火から降ろし、鰹節が沈むように、静かに脇によけておきます。鰹節は売っているけずり節を買うのが便利です。

鍋にバターかマーガリンかラードを三十匁、中火で溶かします。


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バターがとけたら、そこに中ぐらいの玉ねぎ半個をきざみ入れて、焦がさぬようにいためます。

すぐにこの中にメリケン粉を40匁をふり入れて、使い古して少し先のへった、ご飯しゃもじ(注:木のヘラの代用)できりつけるようにかきまぜ、粉と油がよくよく混ざるようにします。 

粉とアブラがまじって、水にぬれた粘土のようになってきます。それをしゃもじで、押すようにして、かきまぜてゆきますと、こんどはバサバサに、ちょうどお豆腐の「おから」のようになってきます。

なおなお力を入れて、丹念に押しつけるようにまぜてゆきます。
とても時間をくい、手首もだるく、初めての方は、まだかと不審に思われるほどです。

ここが大切で、これが充分でないとあとで、スープを入れたとき だまが出来たり、風味も物足りないのです。

ここにニンニクを一かけらきざみ入れます。


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しゃもじを持つ手がだんだん楽になってきて、粉にいったんしみ込んだ油が逆に浮き出して、色も狐色になってきます。

なおかきまぜていくと、丁度色も艶もやわらかさもピーナッツバターのような感じに、ベトベトにテリが出て来ます。

こうなると、中の野菜も色づき、油ですっかり粉のコシも切れてしまいます。ここまでにする仕事が一番大切で、これがカレーの生命を決めてしまいます。

バターを溶かしてから、ここまで、火加減にもよりますが、大体25、6分かかります。


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こうなってから、はじめてカレー粉を茶さじに平らに三杯入れ、五分ほどよくかきまぜていためます。

最初とったダシをこして、今いためた粉とカレー粉の鍋に入れ、アワ立て器でかきまぜます。(もしダマが出来たら裏ごします。)

西洋にんじん15匁ぐらいの1本と、あまりすっぱくないリンゴ1個をすりおろします。
これを鍋に入れて、どんどん煮ていきますが、底にしずんだものが焦げ付くので、絶えずかき回します。
あればバナナも1本すりつぶして入れます。

にんじん、リンゴ、バナナは、カレーに甘みと、かすかな酸味をふくませるためです。本場の印度では、甘ずっぱいマンゴーのチャツネー(甘酢漬果物)を入れます。この味が、丁度にんじん、リンゴ、バナナで出せるのです。

10 じゃがいもを親指ぐらいの大きさに、角を落として丸みを付け、一人、3個用意してカレーの中に入れます。

11 先に、トリ肉一人、二、三片、百匁ぐらい用意して、塩をたっぷり粉雪のようにかけておきます。
フライパンに油を引き、このとり肉をいためて、カレー粉を茶さじに軽く1杯かけてコゲメをつけます。

このとき煮ているカレーの味をみて、カレーが利いていないときは、ここでカレー粉の加減をします。


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12 いためたとり肉をカレーの鍋に入れます。そして、ここではじめて塩を入れて、味をととのえます。
このとき、酢を茶さじ一杯ぐらい入れます。この代わりに、あればトマト小さめの1個、皮とタネをとって、きざんで入れます。
レモンもあれば4分の一ほどしぼり入れるといっそう風味がよくなります。

肉を入れてから、15分ほどで出来上がります。これは、さっき入れたじゃがいもが煮上がる時間です。
汁の加減はご飯の上にのせたとき、流れるともなく、とどまるともないような感じに出来上がります。

出来上がってから、召し上るまで、弱火で、たえずかき混ぜておけば、味もますます練れて、よくなってきます。


薬味に、ラッキョウ、紅しょうが、福神漬け、ピクルスの刻んだもの、赤玉チーズのおろしたもの、干しブドーなどを使います。なかでもチーズと福神漬けは是非ともととのえたいと思います。




カツブシだしの謎について・・・

ところで、なぜ、カレーにカツブシだしなんでしょう?  

千葉千代吉さんは、第3号から「西洋料理入門」を連載していますが、そこに「カツブシのストック」という記事があります。 

それを読むと謎がとけます。

「西洋料理でいう「ストック」というと、料理人はニワトリのガラを六、七羽も使ってグツグツ一日かかって取るので、家庭で一羽かそこらでダシをとってもうまくいかない。それよりも、たっぷりと「カツブシ」を使ったダシのほうが手軽で、ずっとおいしく出来上がる、料理によっては、わざわざ本物の「ストック」より、これを使うことがあるくらい、というワケです。」

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イラスト*花森安治

同じく、「西洋料理入門」の「本当のカレーライスはこうして作る」
昭和24年夏の第4号。

ここでは、トリ肉でなく豚肉を使い、ほとんど同じレシピでカレーライスのコツが紹介されています。

「ことに夏は、どちらでもカレーライスをお作りになりますが、どうも上手にできないとおっしゃいます。」 

「豚肉に限らず、カレーライスの実は、決してカレー汁で煮るのでなく、あらかじめいためて味をつけたのを、皿に盛るまえに汁と一緒にする、それぐらいの気持ちでやらないとおいしくないのです。」 


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「志賀直哉のカレーライス」
五人分はたっぷり作れそうな大きな鍋で、玉ねぎをいため、フライパンでブツ切りのトリ肉をいためる迫力が食欲をそそります。

カレーレシピを担当の千葉千代吉さん。
戦前お茶の水にあった、ヴォーリズが設計した「文化アパートメント」やドイツ料理店「ラインランド」の料理長を勤め、リタイア後は『暮しの手帖』のスタッフに加わっています。
 

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