昭和の「暮しの手帖」から

創刊号〜70年代「暮しの手帖」バックナンバーから。珠玉の記事をピックアップ

「西洋料理入門」の連載がスタート 1949年

第3号ですでに西洋料理

『暮しの手帖』に西洋料理は、たいへんに早い時期に登場します。

昭和24年春の第3号から、千葉千代吉さんの「西洋料理入門」が連載としてスタートします。

「とと姉ちゃん」のモデルとなった、花森安治、大橋鎮子さんらが『暮しの手帖』を創刊し、2号、3号と発行していくものの、雑誌は思うように売れず、戦後すぐの不況のなか「3号で倒産か」とやりくりが苦しくなっていた頃です。


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昭和24年春 家具の上にひな人形 

「ますます暮しにくい日々が、はてることもなく続きそうでございます。・・・ともすれば、このつらい暮しに負けて、何もかも打ちすてたいという気になりやすい明け暮れなればこそ、せめて乏しきなかに、すこしでも明るく美しくと願うこころが、まして大切なのではございませんでしょうか。」(第3号あとがきより)

文化アパートメント

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文化アパートメント 1925年

千葉千代吉さんが『暮しの手帖』で西洋料理を担当するいきさつには、文京区本郷にあった、「文化アパートメント」がかかわっています。

大橋鎮子さんが著書に当時の様子を書いています。

「文化アパートとは、アメリカ人でのちに日本に帰化したヴォーリズが設計し、1925年(大正14年)に完成した鉄筋コンクリート五階建ての住居用建物です。エレベーター、温水式の暖房、西洋式のキッチンやトイレ、洗濯機やアイロン付きの共同洗濯室、ハイヤーはすぐに使えるように常駐・・・。」


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キッチン

「当時では考えられないほど近代的な設備が整っていた一方で、クラシックな内装は今思い出しても本当に素敵でした。マントルピース、シャンデリア、洋式のバスタブ。備え付けの椅子は、赤みのある濃い紫色のビロードで、花模様が織り込んである布張り。木部には彫刻がほどこされていました。」


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「この文化アパートがいかに贅沢かというと、食堂があって、そこではオードブル、スープ、魚、肉、デザート、コーヒーと本格的な西洋料理のコースがありました。
ここの料理長が千葉千代吉(ちばちよきち)さんで、「暮しの手帖」を始めてから、「西洋料理入門」の連載をはじめ、シチュウの作り方、ハンバーグ、とんかつ、コロッケ、カレーライス、ピラフなど、誰もがふつうに買える材料を使って、おいしく作るコツを紹介してくれたのでした。」 


戦時中、昭和19年に日本出版会が文化アパートを全館接収し、大橋鎮子さんが勤務していた日本読書新聞社の事務所もここにおかれました。

「私たちも、お昼はこの食堂で、安く一流の味を料理が食べられましたが、戦争がはげしくなるにつれ、材料が手に入らず、だんだん内容のさみしいものになっていきました。」(「暮しの手帖とわたし」より)




西洋料理はフランス料理

千葉千代吉さんは、もと霞町のドイツ料理店「ラインランド」のシェフで、当時、文化アパートの食堂のコック長を務めていた縁で、『暮しの手帖』初期の西洋料理記事の中心となっていました 。

また、ヴォーリズは日本各地で学校、教会、YMCA、病院、百貨店、住宅など西洋建築の設計を数多く手がけています。
ヴォーリズ合名会社(のちの近江兄弟社)の創立者の一人で、メンソレータムを日本に普及させた実業家でもあります。


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旧下村邸 1934年

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六甲山荘 1934年

現在、こういった洋風建築は老朽化して取り壊され、姿を消していく一方ですが、当時はむしろ外国の建築家によるホテル、洋館などが現役で活躍していた時代。『暮しの手帖』の紙面にも、少なからず影響を与えていたのではないかと思うのです。

昭和の洋食といえば、オムライス、カレーライス、ハンバーグ、ナポリタンなどを思い浮かべますが、千葉千代吉さんによれば、西洋料理はフランス料理とのこと。

ホットケーキ、カスタード・プディングなど「お菓子」のレシピは、巴里コロンバン銀座の門倉国彦さん、西洋あんまき(クレープ)など紹介したサト・ナガセさんもフランスでの生活が長かった方です。

第54号(昭和35年)から、『暮しの手帖』で連載がはじまった「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」の石井好子さんも、シャンソン歌手としてパリ暮しの中でのエッセイです。


千葉千代吉さんの「西洋料理入門」は第3号から第13号まで連載され、その後もシチュウやポトフなど、西洋料理の調理法やコツを紹介しています。 
その中には、志賀直哉も記事を見て作ったという「料理店にまけないカレーライス」(第16号)もあります。


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