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昭和の「暮しの手帖」から

創刊号〜70年代「暮しの手帖」バックナンバーから。珠玉の記事をピックアップ

「シェーファーのインク瓶 」 花森安治 1969年 

ベスト・コレクションのエッセイ

「いま、これを書いている、目の前の机の上に、インク瓶がある。
だが、この瓶が、たいそう気に入っているのだ。」

という書き出しで始まる、花森安治さんのエッセイ「シェーファーのインク瓶」は、1969年「暮らしの手帖」第99号に掲載されています。

『花森安治・・美しい暮しの創始者』という雑誌では、ベスト・コレクションのエッセイの一編として紹介されています。

文房具好きは、ぜったい目をとめてしまうエッセイです。




カステルの鉛筆と、シェーファーのインク瓶

「好みの基準は人一倍きびしいというか、好き嫌いが激しい」という花森さんにとって、いちばん嫌いなのは、すぐこわれてダメになるもの、やたらに、いろんな飾りや模様がついているもの。 

「ふいたり、みがいたり、洗ったりして何年も何十年も大切に使っていくのが、なんともいえず好きで、そうして使いこんだ味がたまらない」と書いています。 

机のまわりの小道具類の中でも好きだったのが、カステルの鉛筆と、シェーファーのインク瓶。

以下は、花森さんのエッセイ「シェーファーのインク瓶」から。


万年筆のほうは、中学生のころのウォーターマンからはじまって、たいていの銘柄は使ってみたがその万年筆に入れるインクのほうは、戦後はパイロットばかりだった。
まあ、ひどいカスさえ出なければ、なんだっていい、ぐらいの気持ちで、それに、どのインクもじつは大してちがいはなさそうだった。

ところが、なにかのことで、十年ほどまえ、シェーファーのインクを使った。
聞いてみると、このインク瓶は、よほど前から、たぶん終戦前から、このかたちだということだが、とにかく気に入ってしまった。

瓶が気に入ると、奇妙なもので、万年筆も気に入ってくる、それまでは、いろんなものを、そのときの気分で使っていたのだが、それ以来シェーファー一本になってしまった。


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インク瓶のちいさなポケット

シェーファーのインク瓶の、どこが気に入ったかというと、上のほうに、ちいさなポケットがついている。 
 
このシェーファーの内ポケットつきの瓶だと、使うとき、いちどさかさまにして、このポケットに、インクを一杯にする。
そして、このポケットに万年筆の先を突っこむ。
だから、新しいときも、万年筆を突っこみすぎて、指のあたるへんまでインクだらけにしないですむし、なによりうれしいのは、インクが底のほうになって、ふつうなら捨てようか、というときでも、写真のように、底のインクを上のポケットに集めると、なんの苦労もなしに使える。
すこし大げさにいうと、「最後の一滴」まで使えるのである。

メーカーの心意気、というものが、ここにある。
それが、こちらの胸に伝わってくる。

(花森安治「シェーファーのインク瓶」より)


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シェーファーのインク「スクリップ」50cc 当時120円


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花森安治---美しい「暮し」の創始者 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

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