商品テスト(日用品のテスト報告)その1 ソックス 1954年

商品テストが誕生するまで

第20号(昭和28年)の「日本品と外国品をくらべる〈石けん〉 」は、商品テストの前身となった記事です。

テストで取り上げた石けんは、すべて商品名は実名で出しています。

しかし、石けんの洗浄力や、石けんが皮膚をあらす「遊離アルカリ」を調べるテストは、一般に使われている分析方法を使い、おそらく外部に分析を依頼したものでした。

また、分析した数値を示す比較表については、商品名はイロハ、ABCという匿名の表記です。 

後の「商品テスト」のように、数値の比較についてもメーカー名はズバリ実名、そして「どの銘柄がいいのか、よくないのか」、それをはっきり判断するのは編集部、という姿勢からはまだ遠かったのです。


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その後の、第22号「暖房・部屋を暖めるには何が一番安上がりで便利か」

これは、各社のストーブ機種のテストでなく、どの燃料を選んだらよいか、石炭、木炭、電気、ガス、練炭、コークスを比較しています。

しかし、数字を出した資料は、東京ガスや高島屋の調べたもの。

デパートやメーカーの聞き取りでまとめたレポートのような内容で、ページには写真も載っていない・・・どうしたって、プールにザブンと飛び込まないで、泳ぎ方を考えているような、もどかしさのある記事内容です。 

ここでも、まだ商品テストからは遠い。


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『暮しの手帖』の柱のひとつと言える「商品テスト(日用品のテスト報告)」がスタートするのは、昭和29年、第26号から。

〈石けん〉からは、1年数ヶ月の期間をおいたことになります。

なぜ、この期間が必要だったのかには、理由があります。

「商品テスト」というものを、すべて白紙からとらえなおして、

取り上げる商品の選び方、どんな点を調べるか、どんな方法でテストするか、テストにメーカーからの提供品を使わない・・・など、

編集部が独自の方法を模索し、作るために必要な時間だったのでしょう。

メーカーなどの提供する数値より、実際にボールを蹴ったり、打ったりしてみなければ、どんな飛び方をするのか、打球感もわからないという感じでしょうか。

そして、そのためには、どうしても自分たちの「研究室」が必要だったのです。


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日用品のテスト報告 その1 ソックス

実際に使ってみてどうだったか・・・暮しの手帖研究室

まさに「実際に使ってみてどうだったのか」という、『暮しの手帖』独自の商品テストが始った第1弾が「ソックス」です。


「考えてみると、昔は、と言っても三十年ほど前までのことなのだが、靴下は日本ではゼイタク品だった」という書き出しではじまるソックス。

当時から三十年前というと、大正時代の終わり頃まで、ということですね。

大正の頃には、洋服を着て、なじみのない靴とソックスで役所や会社に勤め、女学生はハカマの下にソックスと靴をはいていた。 

平塚らいてうなどは、ハカマに靴が女学生の正しい服装とされていた頃、ハカマに日和下駄で東京中を歩きまわっていたようです。下駄のほうが歩きよかったからで、そういえば、『青鞜』はブルー・ストッキング(長靴下)の意味。


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そして「イヤまた実によく、靴下にはアナがあいたのだ。足の指先のアナをかがったかと思うと、翌日にはかかとにアナがあき、それを始末すると、もう次の日には別の指先にアナがあいている・・・」

靴下=アナのあくもの、だったのです。


余談ですが、平塚らいてうが靴下繕いについて書いた文章があります。

「いくら繕っても、つくろっても、繕いきれない靴下の繕い。彼女はきょうもこの静かな武蔵野のふけ行く秋の夜を燈火の元で、読書するでもなく、又してもいつものものぎたない風呂敷包みを取り出し靴下をひとり繕う・・・」

秋のよふけに、夫と子の寝息とコウロギの声を聞きながらの繕いものは心がやわらぐ、としていますが、、「五、六足の靴下の穴が大きいのは大きく、小さいのは小さく、こうしてふさがれていく」(雲・草・人)




試験に使った靴下

戦後になって、日本でもナイロンの靴下が作られるようになると、靴下にアナがあかなくなり、子供用のナイロンの靴下も市場に出るようになってきます。

読者が子供に靴下を買う場合、参考になるようにとソックスの商品テストが行われました。

「今度試験のために買い集めたのは小学校上級から中学校にかけての年齢の子供のソックスで、これを買ったのは、東京の一流のデパートの靴下売り場であった。」

同じ会社の製品を、ナイロン補強(爪先とかかと部分)の木綿と、ウーリー・ナイロンに分け、またそれぞれを色ものと白とに分け、さらにまたゴム入りとゴムなしの二種類を選び、その全部について、特徴や欠点を比較。  

製造会社は、内外編物とレナウンと福助足袋の三社だった。

値段は木綿のほうが安くて、100円〜130円。
ウーリー・ナイロンは、150円〜250円。 

試験のやり方

三ヶ月間、毎日の学校への通学、友だちの家への訪問、買い物、日曜の外出などにはいてもらう。

はいた人は、小学校五年、中学校一年、中学三年の女生徒たち。

洗濯は三日ごとに電気洗濯機で、洗剤(ソープレス・ソープ)を用いる。

日常の生活のなかで、商品をコテンパンに使ってみたらどうなるのか・・? という『暮しの手帖』のテスト方法が確立された瞬間だったと思います。


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テストした結果はこうでした

テストのまとめは、実に明快です。

アナはあかない
はみんなはげる
はき心地はウーリーナイロン、ただし黄ばむのが欠点
が崩れないのもウーリーナイロン
ゴム止めは完全ではない
銘柄だけで安心して買える品はない


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雑誌を作るには、研究所が必要

ソックスが掲載された号のあとがきにも、研究所のことが書かれています。

ここから、数々の伝説的な商品テストへとつながっていったのですね。


「べつに、外国のものが、なんでもいいいというわけではないのですけれど、たとえば、グッドハウスキーピングといった雑誌をみると、ちゃんとした研究所を持っていて、衣食住いろんな面から、暮しについての研究をやっています。

・・・しかし、雑誌を作ってゆく場合、研究する機関が必要なのは申すまでもないことで、ことに暮しについて考えてゆく雑誌なら、ただ原稿をお願いし、写真をとり、記事を書き、それに表紙をつけて、それで出来上り、というわけにゆく筈のものではありません。

どうしても、自分たちの手で、実際に研究して、答えを出してゆかねば、どうにもならないことが、たくさんあります。」


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第26号 表紙

「私たちも、実をいうと、この雑誌をはじめるときから、そういう研究室がほしいと思いながら、ご承知のように、お金と人のやりくりで、なかなか思うようにゆかず、やっと三年ばかし前から、ほんのお粗末なものでしたが、この研究室を作りました。

・・・その結果が、たとえば、先月からはじめた十回連載の「台所」の研究とか、この号では、一番はじめの「道具」や本文の「ソックスをテストする」などにあらわれているわけですけれど、もちろん、私たちとしては、とてもとても、これくらいで満足しているわけではございません。

ありとあらゆる角度から、いろんな研究をしたいし、そのためにも、もっと設備もほしいのです。まあ、あせらないで、すこしずつよくしてゆきたいと心にきめております。」(第26号 あとがきより)


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