昭和の「暮しの手帖」から

創刊号〜70年代「暮しの手帖」バックナンバーから。珠玉の記事をピックアップ

『暮しの手帖』に広告を載せないわけ 花森安治

〈商品テスト〉はヒモつきであってはならない

『暮しの手帖』に広告を載せない、広告費をもらわない理由について。

花森安治は第100号の「商品テスト入門」のなかで、このように書いている。


「ときどき、暮しの手帖に広告をのせないわけを聞かれる。理由は二つある。

一つは編集者として、表紙から裏表紙まで全部のページを、じぶんの手の中に握っていたいからである。ほかの雑誌を見ていると、せっかく編集者が苦労した企画も原稿も写真も、無遠慮にズカズカと土足で踏み込んでくる広告のために、台なしになってしまっている。あんなことには耐えられないからである。

もう一つは、広告をのせることで、スポンサーの圧力がかかる、それは絶対に困るからである。

暮しの手帖は、暮しの手帖なりに、一つの主張があり一つの志がある。それがほかの力でゆがめられるとしたら、もっての外である。ことに〈商品テスト〉の場合、その結果に対して、なにかの圧力がかかってでゆがめられたりしては、折角のテストの意味がなくなってしまう。

〈商品テスト〉は絶対にヒモつきであってはならないのである。」

(暮しの手帖100号 商品テスト入門より)


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心ゆくまで作り上げたい

また、雑誌のごく初期の頃、第9号(昭和25年)のあとがきにも理由が書かれている。


「これは、ひとからよく言われることで、自分でいうのは、すこし変なのですが、もしかして、この雑誌に、ほんのすこしでもなにか清潔な感じがあるとすれば、それはこの雑誌に、一つも広告がのっていないことではないかと思います。

おそらく一般の雑誌で、広告のないのは日本でも、世界でも、めずらしいことなのでしょう。どうして広告をのせないのか、とよく聞かれるのでございます。

広告をのせれば、こんな雑誌でも、いくらかの広告費がいただけるし、それだけ経費のおぎないになることは、いくらこの道に日の浅い私たちでも、もちろん想像のつくことでございます。

それを知りながら、出来ないでいるのは、せめてもの、この清潔な感じを、いつまでも失いたくないと考えているからで、これは、たとえ何百万円の広告費をいただけるとしても、それとひきかえにはしたくない、というのが、私たちみんなの必死の気持ちでございます。

・・・ただ、せめてこのような雑誌一冊、隅から隅まで、活字一本まで、私たちの心ゆくまで作り上げたいとおもうからなので、この我がままも、通せるだけは、通してまいりたいと考えております。」

(第9号 あとがきより)


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テスターはヒモつきであってはならない

『暮しの手帖』に広告を載せない理由は、ひとつは編集者としてすべてのページを自由に企画し、レイアウトしていたい、広告に台なしにされたくないという気持ち。
もうひとつは、広告をのせることでスポンサーの圧力がかかり、自分たちの主張がゆがめられるのは、絶対に避けたいという思い。

花森安治は、おなじことが〈商品テスト〉をする人間、テスターについても言える、「テスターはどんな意味でもヒモつきであってはならない」としている。


「いろんな方面で汚職が、まるで日常茶飯事のように行われている今日、ことにこのことは重要である。
・・・テスターは、仕事の必要上、ときにはメーカーに質問したり教えてもらったりすることがある。この場合、暮しの手帖には、お茶以外にご馳走になってはならないという原則がある。

一回のお茶菓子や、食事で、テスターが気持ちを動かされたり、そのために結果をゆがめたりすることは、まず考えられないが、それが当たり前のことのようになってきたときが恐ろしいのである。

・・・友人先輩関係の会合には、つとめて出ないようにしているテスターは何人もいる。そういう席で、いわゆるコネがつくことを恐れるからにほかならない。」

(暮しの手帖100号 商品テスト入門より)


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左:〈商品テスト〉が始まった第26号表紙 『花森安治のデザイン』より

一つでも実現したい

花森安治は、雑誌のプランを考え、表紙やカットを描き、レイアウトし、写真も撮り、原稿を書き、校正し、紙やインクを選び、製本をチエックし、、すべてに関わり、最終決定していった。広告に紙面を切り売りして、ミリ単位で仕上げた紙面のすべてを台なしにするのは、とても耐えられないことだったと思う。

〈商品テスト〉では、商品の実名をあげ、テストの結果を公表していく。
雑誌が影響力を持つようになるほど、大なり小なりメーカーなどから圧力や妨害が加えられ、何らかの利益で誘惑され、脅迫状がまいこむことさえある。

たとえ何百万円の広告費をもらっても、それとひきかえにはしたくないもの。
雑誌としての、一つの主張、一つの志。


「・・・どの号も、やはり作り上げてみると、ああよく出来たと思うことはなく、何かしら気に入らなくて仕方がありません。

そのなかで、ただひとつ、私たちのなぐさめになることは、どの号も、前の号にくらべて、たとえ小さなことにせよ、日ごろ私たちが考えていて、こうしたいなあ、ということを、何か一つでも実現してこられたという、そのことだけでございます。」(第9号 あとがきより)

 


花森安治のデザイン

花森安治のデザイン

  • 作者: 暮しの手帖社,花森安治
  • 出版社/メーカー: 暮しの手帖社
  • 発売日: 2011/12/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)