商品テスト前夜
昭和28年、第20号
「日本品と外国品をくらべる・石けん 暮しの手帖研究室」
「暮しの手帖研究室」というコトバが初めて登場した記事だと思うのですが、この〈石けん〉の比較はまだ「商品テスト」の前段階です。
『暮しの手帖』の柱のひとつと言える「商品テスト(日用品のテスト報告)」がスタートしたのは、翌年の昭和29年、第26号から。
〈石けん〉からは、1年半ほど時間をおいてからになるのです。
第20号 「日本品と外国品をくらべる 石けん」
商品のどんな点をしらべるか
「どの商品についても多かれ少なかれ、一体なにをテストするか、どの点をしらべるのか、それをきめることから〈商品テスト〉は始まるのである。」(第100号 商品テスト入門)
〈石けん〉についてはつぎの5点をテスト。
1 おち・・・汚れがよく落ちるか
2 溶け具合・・・使っていてどんなふうに溶けていくか
3 荒れ・・・皮膚や繊維などをいためるかどうか
4 香り・・・使っていていい香りがするか
5 包装・・・石けんの色・形・大きさ 包み紙のデザイン
そして、せっけんを、化粧石けん(浴用石けん)、洗たく石けん、合成洗剤に分けて、上の5点について調べて比較している。
商品は実名で、写真も掲載
テストで取り上げた石けんは、すべて商品名を出しているし、写真も掲載されている。
化粧せっけん
国産品は、ミツワ石けん、花王石けん、牛乳石けん、ニッサン石けん、資生堂オリーブ石けん
外国品は、パーモオリーブ、ラックス、キャメイ、カシミヤブーケ、ウッドバリー(当時は手に入るのはアメリカ製品)
洗たく石けん(固形)
日本品は、ライオン、アデカ、ニッサン、ミヨシマルセル
外国品は、フェルスナプサ、クリスタルホワイト、スワン、アイボリー
洗たく石けん(粉せっけん)
日本品は、花王粉ビーズ、ライオン、ゲンプ、ニッサン
外国品は、ラックス、リンソー、オキシドール、ダズ、アイボリースノー
合成洗剤
ニッサン洗剤、モノゲン、エキセリン、エマール(以上高級アルコール系)、ライオン、ミケソープ、ニッサンウェット(鉱物油系)
外国品ではベル、ドレフト(以上高級アルコール系)サーフ(鉱物油系)タイド(混合)
一般に使われている方法でテスト
★石けんの洗浄力
まず、汚れ落ちについて調べているが、「実は日本でも外国でも、まだこれがいいという確実な試験方法はなく、いま研究されている有様です」ということで、一般に使われていた方法を選択している。
木綿布を、カーボン・パラフィン・ベンジンで一定に汚して、この布を40度の石けん液のなかで30分洗う。洗う前と後の布の重さをはかって、その差を百分比であらわして洗浄力とする、というもの。
これが1年半後の「商品テスト」になると、たとえ単純な方法だとしても、ソックスであれば「3ヶ月間、小・中学生にはいてもらう」など、自分たちで考えたテスト方法に変わっていく。
実験室での「一般的に使われていた方法」での分析でなく、独自の方法で「生活そのものの動き」でテストする(しかも徹底的に・・・)。
この差はとても大きくて、「暮しの手帖の商品テスト」が誕生した瞬間なのだと思う。
★肌を荒らすかどうか
「同じ石けんを使っても、あるひとは荒れるし、あるひとは全然荒れないということもあって、一概にいい切れないものがありますが、たとえば、肌に石けんの溶液をしませた布をはって反応を見るという方法も、よほど大勢のひとにやってみないとわからないので、そう簡単にはできないのです。」
として、当時の研究結果で、石けんが皮膚をあらす主な原因とされる遊離アルカリの度合いを調べている。
「これで見ると、日本品も外国品もほとんど差がなく、0.02以下で工業規格0.1%をはるかに下まわっているので、どちらも問題でないことが分かります。つまり、ここで試験した程度の石けんならば、皮膚をあらすということは、まず考えられない」という結果になっている。
実際に数値を出した比較表については、商品名は出していない。(上)
イロハや ABCという匿名の表記になっている。
これも、後の「商品テスト」では、メーカー名は、ズバリ実名になります。
そして、読者に判断をまかせるというやり方も取らず、「どの銘柄がいいのか、よくないのか、それをはっきりいわなければ、買う方は判断に迷うし、判定の責任から逃げようとしていることになる」
と、編集部が判断する姿勢を花森安治は100号に書いている。
石けんのテストをした結論
1 落ち、という点では、外国品と日本品は何ら甲乙はない
2 荒れるかどうかという点も、どちらも心配ない
3 溶け具合は、外国品が少しよいが、使う上ではたいした差はない
4 香い 化粧石けんの場合、外国品にかなわない
5 包装 外国品も一、二をのぞいては、それほどいいものもないが、日本品の方はガタ落ち
石けんの品質については、あまり差はないが、日本品は香りと包装にはもっと考慮を、という結論だった。
石けんの包装について
石けんの包装デザインについては、花森安治が熱のこもった批評を書いていて、写真がモノクロだけど、この部分はたいへん面白かった。
化粧石けん
「化粧石けんの包装で、一番不愉快なのは、日本品のなかには中身より相当大きな箱をつけて、ふればカタカタと音がするようなものが、最近のはやりみたいになっている」と、まず日本商品の上げ底趣味を指摘。
「包み紙のデザインからいうと、外国品ではパーモオリーブのオリーブ色の一色に、商品名を白抜きした黒い帯紙をまいたのが出色。あとのはどれもこれも落第。」としている。
「日本品では花王石けんがよろしい。ただ、戦前からの古いデザインで、商品名の書体は、これは時代によって感覚が変わっているから、書き直したら一層よくなる。」
粉せっけん
「日本の粉石けんは、どうして申し合わせたように赤い色を使うのだろう。それも鳥居のような朱色。」
調べてみると、当時の石けんの包装は、なぜか赤や朱色が多い。
「デザインも、どれもこれも関心するものはない、外国品でもオキシドール、ダズは落第。ラックスが、粉せっけんといわず、あらゆる石けん包装のなかでもっとも優れたもの。濃紺の地に文字を白く大きくぬき、赤い円形をおいたり、これは非のうちようがない、次いで、緑色のリンソー。」
粉石けん 日本品
粉せっけん 外国品
合成洗剤
合成洗剤
「外国品、日本品これというデザインは見当たらない」としたうえで、
「日本品は面をいくつにも分けて、直線や曲線や画を入れ、全体をゴタゴタした感じにしているのが目立つ。」
また、洗たくしている図案はすべて女性の姿、というのもこの時代の特徴。
これは、日本の統一性のない街並みにも似て、今に続いている日本のデザイン性とか画面構成について当てはまる指摘かもしれない。
シンプルな美しさ、というものは認めないかのように、やたらと色や文字を付け加えたり、分割したりする不思議。