商品テスト(日用品のテスト報告) 鉛筆 1955年

花森安治といえば、「カステルの鉛筆」。

濃い緑色の塗りに金文字のドイツ製鉛筆は、花森安治のお気に入りでした。

そのカステルの鉛筆が登場する初記事が、初期の商品テストです。


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日用品をテストした報告 ★その3 鉛筆

掲載は昭和30年、第28号。

終戦から10年。終戦直後のように、ちょっと落とすと、すぐまっ二つに割れてしまうような鉛筆は、ほとんどなくなった。

商品テストに使った鉛筆は HB と4B 。

都内の各デパート、小売店、小学校の前あたりの小さな文房具店などから2ダースずつ買いあつめた。

メーカーはつぎの通り。

《 HB 》
トンボ 8900番 10円  
トンボモモ 4612番 30円
三菱 9800番 10円
コーリン 686番 10円
ヨット 8000番 10円

プラトン 550番 5円
めいざん 8080番 5円
キリン 2500番 5円
地球 845番 5円
ウェルビー 5080番 5円
ホロ馬車 小学生用 5円

比較参考として、キャステル(ドイツ)90円
 
《 4B 》

トンボ 8900番 10円  
トンボモモ 4612番 30円
三菱 9800番 10円
コーリン 686番 10円
ヨット 8000番 10円
ウェルビー 5080番 5円
キャステル(ドイツ) 90円

(三菱ユニはまだ発売されていない。発売は1958年。)


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テスト内容は

外からみた場合として

A 曲がりはどうか
B 芯が偏ってはいないか
C JIS マークがついているか

削ってみた結果として

D 削りぐあいはどうか(小刀を使用)
*塗り
*左右の質が同じか、削った木がはじけないか
*固さ

E 芯のテスト
*芯の強さはどうか
*書きぐあいはどうか
*どのくらい書けるか
*軸木の接着がはがれないか




鉛筆を削ることについて

鉛筆を使う大きな魅力は、今も昔も、ナイフで木を削るという楽しみ。

商品テストでも、小刀を使用して削っていて、花森安治は「削りぐあい」について、こんな風に書いている。

「鉛筆の優劣をきめるのは、何といっても書きぐあいと、削りぐあいがポイントだ。・・・あの山の匂いのする鉛筆の肌を削るのはちょいと楽しいことである。こんな心理的な要素もバカにならない。」

「鉛筆削り器がひところのようにはやらないのも、よい機械はえらく高価なことのほかにも、小刀で削るというたのしさがあるのかもしれない。」

ある大メーカーの技術者はこんな述懐をしている。

「何といっても、木というヤツは自然の産物ですからね。逆目がまじったり、木質自体にムラがあるんです。ですから、たとえばオガクズを細かい粉末にして圧縮してかためれば、質も均一になるんですが、何か『自然を削る』というたのしさがなくなりそうでどうかと思うんですよ」


削りぐあいには、「塗り」の具合も含まれていて、ナイフを入れたときの鉛筆の塗りは三菱がいちばんよく、トンボ、コーリンはやや厚いという結果。

たしかに、買ってきた鉛筆を削るとき、小刀の刃先を最初にあてるのは「塗り」の部分。

「鉛筆の塗りは優良品ほど何回も塗る。これで湿気を防ぐという理由もあるのだが、何よりつやを出して、みてくれをよくするのが目的だ。そのために、あまり塗りすぎると、ナイフを入れたときに、固かったり、厚すぎる感じがして削りにくい。」


ところで、鉛筆を一見しただけで、「削りやすいかどうか?」を判定するかんたんな方法は? 

「鉛筆のコグチを手にとってごらんなさい。赤っぽい色をしているのは、まずよろしい。これは削りやすいように特殊の染料を入れて、よく乾かしてあるのだ。反対に生木の色をしているのはダメ。」


鉛筆の曲がりや、芯の偏りでは、10円以上の鉛筆と5円の鉛筆では大差なかったが、この削りテストでは「めいざん」を除いて、はっきりと値段の差がひらいたようだ。

「10円以上の鉛筆は、ほとんどインセンス(レッド・シダー)という最上の輸入材を使っていることが大きな原因だろう。内地産のひのき、あららぎ、はん、ひめこまつなどは残念ながら、インセンスにには材質がはるかに及ばないのである。」




書きぐあいについて

「これはいちばん肝心なテスト。多少曲がっていても、芯が少々偏っていようと、書きぐあいさえよろしければ、まず文句はない。」と花森安治は書いている。

トンボモモ・トンボ、それからキャステルはやわらかい、三菱はやわらかいが、ややきしむ。その他の鉛筆は、きしんだり、かたかったり。濃さもトンボモモ・トンボがいちばん濃く、次が三菱だった。

「書きぐあいの良い鉛筆は、紙の上を力を入れないでも自然にすべる様に、すんだ音で書いてつかれず、見た目も美しい。ちょうどアイススケートで、銀盤をすべる感じで、その反対に、悪い鉛筆は、ローラースケートの感じである。キャステルをアイスペンシルとすれば、一流鉛筆はそれにほぼ近いが、もう一歩というところ。ローラーペンシルも靴をはきかえて、さっそうと脚光をあびて、銀盤をすべっていただきたい。」


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昭和30年、どこの鉛筆がよかったか・・・

いちばん肝心なのは「書きぐあい」がよいこと、「削りよい」ことの二つ。

これまでのテスト結果から、暮しの手帖研究室は ABC に分けた。

Aクラス・・・これならおすすめしてよい
Bクラス・・・まずまず程度
Cクラス・・・どうもこれでは困ります
 

A級 何といってもキャステル(ドイツ品・1本90円)が各項目で断然 Aクラスのトップだった。
トンボモモ・三菱・トンボは木質、削りぐあい、書きぐあいともによくAクラスだが、キャステルにくらべると、芯が弱く、減り方も早い。まだまだ改良の余地がある、としている。

準A級は、めいざん。曲がりが多かったが偏芯は少なく、木質は左右あちこちだが、削りぐあいはよい。1本5円であることを考えればお徳用。


値段について、30円のトンボモモと10円のトンボの差はどうかというと、「家庭用には同じトンボなら10円で結構、それほど違やしないのである。」

「製図屋さんや、メーカー仲間にいわせても、たしかに30円の鉛筆は10円の鉛筆よりすぐれていることは認めている。しかし、値段の差ほど、つまり10円の3倍だけの値打ちがあるかというと、みな首をかしげる」

輸入品のキャステルは90円。

「・・・何もいわずとも、そんなぜいたく品はふつうはお買いになるまい。ただ、90円という値段は関税その他がかかってるからで、ドイツ国内での販売価格は、日本円に換算して30円程度の品で、トンボモモと同じぐらいということを覚えておいていただきたい。同じ30円なら、残念ながらキャステルの方が大分、上である。」


それにしても、わずか7ページに内容の濃いテスト記事。鉛筆ファンには貴重な資料かもしれない。

それから、やっぱり花森安治のイラストが素晴らしい。