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昭和の「暮しの手帖」から

創刊号〜70年代「暮しの手帖」バックナンバーから。珠玉の記事をピックアップ

商品テスト(日用品のテスト報告)その3 鉛筆 1955年

商品テスト 文房具

鉛筆のある暮し

かんがえてみると、おかしな話だ。
ものを書きつけるということは、人間が人間らしい生活をはじめてから長い間の習慣なのに。
「おい、ちょっと鉛筆を貸してくれ」
「鉛筆?どこへいったかしら?太郎ちゃん、太郎ちゃん!お父様が鉛筆だって」
一家の中で、こどもだけが鉛筆を持ってるなんてことはザラである。

会社にゆけば、ペン皿にペンといっしょに五、六本の鉛筆、赤や青の色鉛筆までならんでいるのに、ご主人は家へ帰れば専用の鉛筆を一本も持ってないのはめずらしくない。一家の主婦でご自分専用の鉛筆をお持ちになっているのが、どれくらいあるが疑問である。・・・・ 

と、サザエさんのひと場面のような書き出しの「実際に使ってみてどうだったか・・日用品をテストした報告 ★その3 鉛筆」

掲載は昭和30年、『暮しの手帖』第28号。


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イラストも花森安治

「マー姉ちゃん」と「とと姉ちゃん」

ところで、時代背景が似ていると思って調べてみると、『サザエさん』の作者・長谷川町子と『暮しの手帖』の編集者・大橋鎮子は、奇しくも1920年(大正9年)生まれの同い年だった。

1948年に『美しい暮しの手帖』(後の『暮しの手帖』)が創刊され、サザエさんの第1巻が出版されたのは、1年前の1947年だった。

サザエさん第1巻はB5判の横とじで、書店の店頭に並べにくいとの理由で大量返品を受け、長谷川家は在庫に占領される事態となった。姉が大八車を雇って、小さな出版取次を回り第2巻を納入した。
創刊当時の『暮しの手帖』も、リュックに在庫の雑誌を詰めて、編集部員が書店をまわって本を置いてもらっていた。

共に3姉妹で、長谷川町子の姉を主役としたNHKの朝ドラ『マー姉ちゃん』(1979年)、大橋鎮子と花森安治をモデルにした『とと姉ちゃん』(2016年)が放送された。


『マー姉ちゃん』の原作は、長谷川町子の自伝『サザエさんうちあけ話』で、ドラマの平均視聴率は42.8%、最高視聴率は49.9% 。


サザエさん うちあけ話

サザエさん うちあけ話

  • 作者: 長谷川町子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/03/18
  • メディア: コミック
 

 



どんな鉛筆テストをしたか?

鉛筆の話から横道にそれてしまったが、商品テストに使った鉛筆は HB と4B で、都内の各デパート、小売店、小学校の前あたりの小さな文房具店などから2ダースずつ買いあつめた。

メーカーはつぎの通り。

《HB》

トンボ 8900番 10円  
トンボモモ 4612番 30円
三菱 9800番 10円
コーリン 686番 10円
ヨット 8000番 10円

プラトン 550番 5円
めいざん 8080番 5円
キリン 2500番 5円
地球 845番 5円
ウェルビー 5080番 5円
ホロ馬車 小学生用 5円

比較参考として、キャステル(ドイツ)90円
 
《4B》

トンボ 8900番 10円  
トンボモモ 4612番 30円
三菱 9800番 10円
コーリン 686番 10円
ヨット 8000番 10円
ウェルビー 5080番 5円
キャステル(ドイツ) 90円

昭和30年なので、三菱UNI (ユニ)はまだ発売されていない頃。


テストは外からみた場合として

A 曲がりはどうか
B 芯が偏ってはいないか
C JIS マークがついているか

削ってみた結果として

D 削りぐあいはどうか(小刀を使用)
●塗り
●左右の質が同じか、削った木がはじけないか
●固さ

E 芯のテスト
●芯の強さはどうか
●書きぐあいはどうか
●どのくらい書けるか
●軸木の接着がはがれないか


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テストした結果は

A 曲がりはどうか
B 芯が偏ってはいないか

各メーカー1ダースの鉛筆を調べると、曲がり具合はキャステルは1本なのだが、国産品はメーカーによって6、7本。芯の偏りはキャステルはゼロで、国産品は4、5本とバラツキがある。 


D 削りぐあいはどうか(小刀を使用)

「鉛筆の優劣をきめるのは、何といっても書きぐあいと、削りぐあいがポイントだ。それに実用上には関係のないことだが、あの山の匂いのする鉛筆の肌を削るのはちょいと楽しいことである。こんな心理的な要素もバカにならない。

ある大メーカーの技術者はこんな述懐をするのである。
「何といっても、木というヤツは自然の産物ですからね。逆目がまじったり、木質自体にムラがあるんです。ですから、たとえばオガクズを細かい粉末にして圧縮してかためれば、質も均一になるんですが、何か『自然を削る』というたのしさがなくなりそうでどうかと思うんですよ」
鉛筆削り器がひところのようにはやらないのも、よい機械はえらく高価なことのほかにも、小刀で削るというたのしさがあるのかもしれない。」と花森安治は書いている。


削りぐあいでは、「塗り」が最初にある。
たしかに、買ってきた鉛筆を削ろうと、小刀の刃先を最初にあてるのは「塗り」の部分。

「鉛筆の塗りは優良品ほど何回も塗る。これで湿気を防ぐという理由もあるのだが、何よりつやを出して、みてくれをよくするのが目的だ。そのために、あまり塗りすぎると、ナイフを入れたときに、固かったり、厚すぎる感じがして削りにくい。」

ナイフを入れたときの鉛筆の塗りは三菱がいちばんよく、トンボ、コーリンはやや厚いようだ。


花森安治は、「ところで、鉛筆を一見しただけで、この削りやすいかどうか?という眼目を判定するかんたんな方法をお教えしよう。」と書いている。

「鉛筆のコグチを手にとってごらんなさい。
赤っぽい色をしているのは、まずよろしい。これは削りやすいように特殊の染料を入れて、よく乾かしてあるのだ。反対に生木の色をしているのはダメ。」


鉛筆の曲がりや、芯の偏りでは、10円以上の鉛筆と5円の鉛筆では大差なかったが、この削りテストでは「めいざん」を除いてかなりはっきりと値段の差がひらいたようだ。

「10円以上の鉛筆は、ほとんどインセンス(レッド・シダー)という最上の輸入材を使っていることが大きな原因だろう。内地産のひのき、あららぎ、はん、ひめこまつなどは残念ながら、インセンスにには材質がはるかに及ばないのである。」


E 芯のテスト
●書きぐあいはどうか

「これはいちばん肝心なテスト。多少曲がっていても、芯が少々偏っていようと、書きぐあいさえよろしければ、まず文句はない。」 

トンボモモ(非常にやわらかい)、トンボ(やわらかい)、三菱(やわらかいが、ややきしむ)、コーリン(すこしきしむ)、ヨット(すこしかたい)、プラトン・めいざん(すこしきしむ)、キリン・地球・ウェルビー(きしむ)、ホロ馬車(非常にきしむ)。キャステルは「やわらかい」

濃さはトンボモモ・トンボがいちばん濃く、次が三菱。

「書きぐあいの良い鉛筆は、紙の上を力を入れないでも自然にすべる様に、すんだ音で書いてつかれず、見た目も美しい。ちょうどアイススケートで、銀盤をすべる感じで、その反対に、悪い鉛筆は、ローラースケートの感じである。キャステルをアイスペンシルとすれば、一流鉛筆はそれにほぼ近いが、もう一歩というところ。ローラーペンシルも靴をはきかえて、さっそうと脚光をあびて、銀盤をすべっていただきたい。」


どのくらい書けるか、というのは、5mmの芯でどれぐらいの長さを書けるかというテスト。紙テープの裏をつかってテストしている。ただ、長く書けすぎるのも問題で、長く書ける鉛筆は薄すぎて固い。 



どこの鉛筆がよかったか

これまでのテスト結果から、暮しの手帖研究室はABCに分けている。
いちばん肝心なのは「書きぐあい」がよいことと、「削りよい」ことの二つ。

Aクラス・・・これならおすすめしてよい
Bクラス・・・まずまず程度
Cクラス・・・どうもこれでは困ります
 

A級 何といってもキャステル(ドイツ品 1本90円)が各項目で断然Aクラスのトップ。
トンボモモ・三菱・トンボは木質、削りぐあい、書きぐあいともによくAクラスだが、キャステルにくらべると、芯が弱く、減り方も早い。まだまだ改良の余地がある、としている。

準A級 めいざん
曲がりが多かったが、偏芯は少なく、木質は左右アチャコチャあるが、削りぐあいはよい。書きぐあいもコーリン・ヨット程度なので、1本5円であることを考えればお徳用。

B級 コーリン・ヨット

C級は、その他の鉛筆ということになっている。


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値段ついて、30円(トンボモモ)と10円のトンボの差はどうかというと、
「製図屋さんや、メーカー仲間にいわせても、たしかに30円の鉛筆は10円の鉛筆よりすぐれていることは認めている。しかし、値段の差ほど、つまり10円の3倍だけの値打ちがあるかというと、みな首をかしげる」
「家庭用には同じトンボなら10円で結構、それほど違やしないのである。」


「輸入品のキャステルは90円だから、何もいわずとも、そんなぜいたく品はふつうはお買いになるまい。ただ、90円という値段は関税その他がかかってるからで、ドイツ国内での販売価格は、日本円に換算して30円程度の品で、トンボモモと同じぐらいということを覚えておいていただきたい。同じ30円なら、残念ながらキャステルの方が大分、上である。」


終戦直後の鉛筆のように、ちょっと落とすと、すぐまっ二つに割れてしまうような鉛筆は、テストではほとんどなくなった。
戦後10年たって、神武景気の入り口、「もはや 戦後ではない」 という言葉が使われたのは、翌年1956年度の経済白書。

それにしても、わずか7ページの記事に、この濃い内容の商品テストの記事。
文房具ファン、鉛筆ファンの方には貴重な資料かもしれない。
 

merimaa88.hatenablog.com