昭和の「暮しの手帖」から

創刊号〜70年代「暮しの手帖」バックナンバーから。珠玉の記事をピックアップ

「暮しの手帖」創刊号 最初の記事は 1948年

可愛いい小もの入れ

昭和23年(1948年)9月に創刊された「美しい暮しの手帖」のトップを飾った記事は、「可愛いい小もの入れ」でした。


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大橋さんが考えて中野さんが縫った

創刊号の目次には、次のスタッフ名が記されています。

表紙 花森安治
写真 松本政利 林重男
装画 花森安治 草加やす子
編集 大橋鎮子 中野家子 横山晴子 大橋芳子 清水洋子
進行 横山啓一

「可愛いい小もの入れ」は、壁掛け式の小物入れで、大橋鎮子さんが考え、中野家子さんが縫ったもの。
直線裁ちの記事のモデルも大橋さん、髪を結った写真は妹の芳子さんと、なにもかもが編集スタッフでまかなう手づくりでした。 


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主婦「草加やす子」は花森さんのペンネーム?

この「小もの入れ」に添えられた文章の筆者は「主婦 草加やす子」となっていて、大橋&中野で制作したのに、なぜ草加さんなのか疑問でしたが、草加やす子さんは、実在の人物ではなく、花森安治さんのペンネームともいいます。 


「洋服ダンスやドレッサーがあれば、そんな心配もいらないでしょうけれど、私たちのように、すっかり(空襲で)焼いてしまって、他人の家に間借りしているような有様では、何もかも不便で、とりわけて、ハンカチや靴下など、小ものを整理するのには、全く困ってしまいます。

そこで無いチエをしぼって考えたのが、壁掛け式の小もの入れ、というわけです。
第一、場所をふさがないので、狭い部屋には、とても重宝しています。

大きさは、タテ65cm、ヨコ45cmに致しました。
それにポケットを18cmの深さにして、一個のポケットが左右2cmずつのフクラミを持つように計って、横につづけて一枚の布で縫いつけ、ポケットとポケットの間は、ミシンをかけてタテに仕切ります。これを上下に三だん縫いつけました。

生地は、妹の持っていた野暮ったいガラ紡で作りました、吊す竹は古いハタキの柄です。」(小もの入れ 草加やす子 より)


「ガラ紡」というのは、明治時代に考案された紡績機で、ガラガラという音からガラ紡と呼ばれています。  
現在の紡績機より、はるかにゆっくりとしか糸を紡げないのですが、手紡ぎに近い素朴な風合いがあり、凸凹した糸は吸水性が高い素材です。
野暮ったいガラ坊どころか、今ではむしろ味のある生地として出回っています。


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ガラ紡の生地



なんにもなかったあの頃

あのころは、なんにもなかった、焼かれたまちになんにもなかったように、
焼かれた家の中も、なんにもなかった、机一つ洋服ダンス一つなかった
終戦の直後にくらべると、コメの値段は百倍にはね上がっていた 
なんでもまだ配給だった 
おそまつな下着でも、切符をもっていかないと買えなかった・・・
暮しの手帖が第一号を出したのはそういう時代だった

(暮しの手帖 100号より)


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創刊号表紙(部分)

あとがき から

第一号の「あとがき」は、もうあまりに有名で伝説的と言えるのかもしれないですが、冒頭と結びの部分を載せてみます。
あとがきの(S)という署名は、大橋鎮子(しずこ)さんでしょうか。


「ふりかえってみると、こんなに、たのしい思いで本を作ったことは、これまで一どもありませんでした。
いく晩も、みんなで夜明かしをしましたし、そうでない日も、新橋の駅に、十時から早くつくことは、一日もないくらい、忙しい日が続きましたけれど一頁ずつ一頁ずつ出来上がってゆく、うれしさに、すこしも、つらいなどとは、思ったこともありませんでした。

この本は、けれども、きっとそんなに売れないだろうと思います。
私たちは貧乏ですから、売れないと困りますけど、それどころか、何十萬も、何百萬も売れたら、どんなにうれしいだろうと思いますけれど
いまの世の中に、何十萬も売れるためには私たちの、したくないこと、いやなことをしなければならないのです。

この雑誌を、はじめるについては、どうすれば売れるかということについて、いろいろのひとにいろいろのことを教えていただきました。
私たちには出来ないこと、どうしてもしたくないことばかりでした。
いいじゃないの、数はすくないかも知れないけど、きっと私たちの、この気もちをわかってもらえるひとはある。・・・・」


「はげしい風のふく日に、その風のふく方へ、一心に息をつめて歩いてゆくような、お互いに、生きてゆくのが命がけの明け暮れがつずいています。
せめて、その日日にちいさな、かすかな灯をともすことができたら・・・この本を作っていて、考えるのはそのことでございました。
どうぞ、あなたの、具体的な、ご感想を、きかせて下さいませ。」


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