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昭和の「暮しの手帖」から

創刊号〜70年代「暮しの手帖」バックナンバーから。珠玉の記事をピックアップ

『暮しの手帖』はじめてのオムレツ 1949年

日本の西洋料理はフランス料理

「これから当分、西洋料理のことについて、知っていること、お役にたつことを思い出すままに書いてゆきたいと思っていますが、私は何といっても料理人なので、思うこと、考えていることを上手な表現で書きあらわすことが出来ません。たりないところ、ひとり合点の点もあるでしょうが、なるたけ分かりやすく書き続けるつもりです。」

という書き出しで第3号から連載がはじまった、千葉千代吉さんの「西洋料理入門」。


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昭和24年春・第3号というと、終戦から3年半、戦後の本格的な不況のなかで『暮しの手帖』も資金に行き詰まっていた頃ですが、「西洋料理入門」は、そんな初期に登場したのです。

第4号に、NHKのテレビ小説「とと姉ちゃん」でも話題になった平塚らいてうの「ゴマじるこ」、第7号にホットケーキが掲載されます。

千葉千代吉さんの料理記事もグラビアになったのは、第14号「シチュウの作りかた」から。

ともあれ、13号まで千葉千代吉さんが書き続けていったページは、料理の種類やレシピだけでなく、ビーフステーキやハンバーグ・ステーキの焼き方、オムレツの作り方、ソースの扱い方、フライパンや鍋の選び方、前菜やスープ、食材について、皿やテーブルクロス、ふきんなど、のちの『暮しの手帖』で様々な料理記事や特集となって展開されていきます。


merimaa88.hatenablog.com

「オムレツは三十秒で」

『暮しの手帖』に、卵を使った料理は何度も出てきますが、いちばん早く登場したのは千葉千代吉さんのオムレツでしょう。
 

「オムレツはとても親しいお料理の一つですが、かんたんに手軽に、出来るので、やさしいと思ったら大間違い。私ども仲間でも「カツレツ三年、オム八年」といわれている位、本当はむずかしいのです。

卵と中味が上手にまじり、別々にならず、中はちょうど半熟卵位のやわらかさ、外側はちょっときつね色になるかならないように上り、お箸でおすと、少し弾力のあるような感じがするのがいいのです。」

そのコツは・・・?

「なるべく小さいフライパンをえらぶことです。それも油のよくしみこんだのがいいのです。そして手早く強火で三十秒位で焼くことです。」

「フライパンにたまる位たっぷり、油をひいて、あまった分をもとにかえしてから、強火にかけて、卵をちょっとたらしてみて、ジッといって焼けたらすぐ卵を全部フライパンの上に流して、お箸で手早くサッサッと、かきまわしながら、少しフライパンの手前の方を持ち上げて、自然と先の方へためるように持っていきます。


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第12号 イラストは花森安治

そうしたらフライパンをかるく片手に持ち、片手で、持った手首をたたき、オムレツの先の方がくるりと手前に返るようにいたします。

これを続けて二、三回して、くるくると巻けたら出来上がったのです。繰り返すようですが、これだけを三十秒位で作るのですから、とても手早にしなければなりません。」

オムレツを皿に移すとき

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オムレツが出来上がったら、お皿に盛るときは、フライ返し、箸、手、どれも使いません、フライパンから、じかに皿に移します。図のようにフライパンをお皿にもっていき合わせるようにして、フライパンを皿に伏せて移します。だからお皿の上に盛ったときは、フライパンで底になっている方が、上になるわけです。


以上はプレン・オムレツですが、中に挽肉などの実を入れるときは、最初、卵を割ったとき、一緒に入れてしまい、箸でかき回すとき、実を先の方へためるようにすると、実と皮が肌分れにならず、上手に出来ます。卵を焼いてから、実を入れ、のり巻きのように巻いたのでは、どうしても桜もちみたいになってしまうのです。」(第4号・オムレツは三十秒で)

卵の混ぜ加減

「オムレツを作るとき、卵二個に大さじ一杯の牛乳かスープ、なければ水を入れますと、出来上がりがフワリと出来ます。
また、卵をかきまぜるとき、かき回し方が少ないと、黄身と白身が別々に固まってしまうのです。
そうかといってかきまぜすぎると、アワがたち、すきとおって、ベトベトして来ます、こんな風だと、最後にフライパンの上でよせるとき、よく寄りませんので失敗するのです。黄身と白身の形がなくなったらそれでよろしいのです。」




フライパンは小さいのがいい

「道具のことを、すこし話しましょう。はじめにフライパンを考えてみます。フライパンはなるべく小さいものを使って下さい。使った方ならわかりますが、大きいのはとても使い勝手の悪いもので、よく大きなフライパンだと、玉子が大きくひろがりすぎて困ったり、火が真中ばかり強くあたるために、こげて、まわりの方は弱くて出来上がらなかったりします。

また、大きいので、重くて片手の操作がむずかしくて困ったりします。フライパンは一つ一つていねいに焼いたり、作ったりするものに使う道具で、よく大きなフライパンで、天ぷらや、焼きごはんを作っていらっしゃる方がありますが、そんな時はゼヒ手頃な身の厚い支那鍋を使うことです。フライパンを使うより便利なのです。」(第3号・フライパンは小さいのがいい)


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第12号 表紙絵 

フライパンを可愛いがる

(現在は、鉄製フライパンで最初におこなう「焼き慣らし」について、各メーカーから方法が出ていますので、そちらを参考にしてください。)


「フライパンを自分の鏡のように、大切に可愛いがってください。新しいときは悪い油でいいのですから、たっぷりつけて火にかけ、こがして煙を出させて紙でふき、熱いうちにすぐお湯を入れて、さっと煮立ててすてる。これを二、三回つづけて、最後に油をうすく引いて、しまって下さい。

何かで使ったあとも、何時もこのようにして、しまうことです。ときたまミガキ粉や石ケンで、サッと洗うくらいで、神経質にごしごし洗っては駄目なのです。せっかくしみ込みかけた油が流れてしまいます。

新しくフライパンをお買いになるのでしたら、今売っている、見たとこきれいなステンレスやアルミニュームのは、さもお料理も上手に、おいしく出来るかと思われますが大間違です。鉄製の見たとこ悪いフライパンを探して買ってください。

鉄のは火の通りが早く、油さえしみ込めばこげつかないのです。他のものは油がしみこんでも、どうしたかげんか、こげついて困るのです。」
(第4号・フライパンを可愛いがる)